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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)89号 判決 1969年7月19日

原告 黒崎道夫

被告 東京都公安委員会

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

1  被告が昭和四二年五月一九日に原告に対してなした第一種普通・二輪・軽各運転免許(第三〇六七―〇四三三〇八〇―二三六三号(「訴状訂正申立書」の記載は誤記と認める。))の各取消処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二原告の主張

(請求の原因)

一  原告は、被告から原告の求める裁判第一項記載の第一種普通・二輪・軽各運転免許(以下「本件各運転免許」という。)を受けていたところ、被告は、昭和四二年五月一九日、道路交通法(以下単に「法」という。)一〇三条二項二号、同施行令(以下単に「令」という。)三八条一号タ号に該当する違反行為があつたことを理由として、本件各運転免許をいずれも取り消した(以下これを「本件各処分」という。)。

二  しかしながら、本件各処分は、つぎの理由により違法である。

1 原告は、本件各運転免許の停止期間中である昭和四二年二月一九日と同年四月一四日の二回にわたつてそれぞれ免許に係る普通貨物、軽自動車の運転をしたが、それはやむをえない事由によるものである。

すなわち、前者の場合は、原告宅に来訪した友人が帰宅するに際し、すでに時刻が午前一時ごろで、電車、タクシー等を利用することができなかつたので、やむをえず原告が自己の普通貨物自動車に同人を同乗させてその自宅まで送つたのであり、また、後者の場合は、得意先から当日の午後四時四〇分までに集金に来なければ支払えない旨電話連絡があつてタクシーその他の交通機関を利用する時間的余裕がなく右指定の時刻に間に合わない恐れがあつたので、やむをえず自己の軽自動車に乗つて右得意先まで行つたのである。

2 被告は、本件各処分をするに際し、法の定める公開による聴聞の手続を行なわなかつた。

すなわち、原告は、被告から呼出しがあつたので、昭和四二年五月一九日午後一時から三時までの間に、警視庁内東京都公安委員会の聴聞室に出頭して聴聞の機会を与えられるよう求めたにもかかわらず、被告は、これに応ぜず、聴聞を行なうことなく原告に対し本件各処分の通知書(通知書は一通)を交付したのである。

三  よつて、本件各処分の取消しを求める。

第三被告の主張

(答弁)

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項1の記載中、原告が運転するに至つた各事情は不知、右事情が運転免許取消事由とはならないとの主張は争う。

原告は、運転免許停止期間中に自動車を運転した理由として、友人を送るため、または集金先に行く時間に間に合わせるために利用すべきタクシーが拾えなかつたことをあげているが、これらは、運転免許停止に伴う通常の不便不利益であつて、とくに停止期間中の運転を正当ならしめるものではない。

三  同第二項2記載の事実中、原告が昭和四二年五月一九日警視庁に出頭したこと、被告が原告に対して本件各処分の通知書を交付したことは認める、その余の事実は否認する。

(主張)

一  被告は、本件各処分を適法適式の手続によつて行なつたものである。

1、聴聞の通知

原告は、昭和四二年二月一八日から同年四月一八日までの六〇日間、本件各運転免許の効力を停止されていたものであるが、この処分が終わつたのちである同年四月二〇日、運転免許証の交付を受けるべく被告所管の警視庁交通部交通処理課へ出頭した。

しかるところ、原告は前記運転免許停止期間中に自動車を運転する違法行為を犯していたので、被告は、原告が交通処理課に出頭した機会を利用して、原告に対し、前記違反行為を理由として原告を聴聞に付する旨、その期日は昭和四二年五月一九日午後一時三〇分である旨、およびその場所は東京都千代田区霞が関一丁目二番地警視庁本部聴聞会場(屋上)である旨、ならびに聴聞会に出席しないときは書面審理で処分の決定を行なう旨を記載した聴聞通知書を交付した。

2、聴聞の公示

被告は、原告に対して右通知を行なつたのち、同年五月一一日付東京都公報第三二一三号に、東京都公安委員会告示第三四号として、原告については、昭和四二年五月一九日午後一時三〇分から、千代田区霞が関一丁目二番地警視庁本部聴聞会場(屋上)において公開による聴聞を行なう旨を掲載し、一般に公示した。

2、聴聞の実施

被告は、右法定の手続を完了したのち、通知ならびに公示した期日である同年五月一九日午後一時三〇分から警視庁本部聴聞会場(屋上)において、委員長堀切善次郎、委員高木寿一が出席して原告の出頭を待つた。しかるに原告は、当日の聴聞が終了する午後三時二〇分ごろになつても出頭しないのみならず、その間、被告に対して電話、伝言等による通知さえもしなかつた。

4、本件各処分の決定

そこで被告は、当日予定された聴聞の全部が終了しても原告からなんらの連絡もなかつたことから原告の不出頭には正当な理由がないものと認め、道路交通法一〇四条四項(昭和四二年法律第一二六号による改正前の規定、現同条五項)により聴聞を行なわないで、原告の本件各運転免許をいずれも取り消した。

5、処分の執行

しかるところ、原告は、同日午後四時ごろ、警視庁本部三階の警務消防委員室に出頭し(同所は、被処分者が多数の場合に屋上の聴聞会場と併用されることがあるので、原告が出頭したとき、たまたま公開聴聞会会場と記した木札が置かれてあつた。)、おりから、同所で聴聞終了後の事務整理にあたつていた交通処理課員長坂丑太郎警部補に対し、聴聞通知書を示して遅れて出頭した旨を申し出た。長坂警部補は、当日の聴聞に立ち会い、その後被告から本件各処分の執行を命ぜられていたことから、原告に対して聴聞はすべて終了した旨を告げ、原告が聴聞期日に出頭しなかつた理由を尋ねた。すると原告は「仕事が忙しかつたので、定められた時間に出頭できなかつた」旨を申し述べたので、同警部補は、原告に対して「それでは不出頭の正当な理由にはならない」旨を告げ、本件各処分を執行すべく処分通知書を原告に交付したものである。

二  被告は、本件各処分を政令で定める基準に従い、適法に行なつたものである。

すなわち、原告は、本件各処分前一年以内に運転免許停止六〇日の処分を受けたものであつて、しかも、その停止期間中に道路交通法一一八条一項一号の違反行為を二回行なつたことが明らかであるところから、当然に、同法施行令三八条一号タの基準に該当するものであり、同条一号は「免許を受けた者が次のいずれかに該当することとなつたときは、その者の免許を取り消すものとする」と定めているのであつて、原告の違法行為が同条一号に該当する以上、原告に対する本件各処分は適法妥当である。

第四証拠<省略>

理由

一  原告が被告から本件各運転免許を受けていたところ、被告が昭和四二年五月一九日法一〇三条二項二号、令三八条一号タ号に該当する違反行為があつたことを理由として本件各処分をしたことおよび原告が本件各運転免許の停止期間中である昭和四二年二月一九日と同年四月一四日の二回にわたつてそれぞれ免許に係る普通貨物、軽自動車の運転をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、原告は、上記のように本件各運転免許の停止期間中に自動車を運転したのは友人を送るため、または集金先に行く時間に間に合わせるため等やむを得ない事由があつたのであるから本件各処分は違法である旨主張するので、まず、この点について判断する。

法一〇三条二項は、「免許を受けた者が、次の各号のいずれかに該当するときは、……公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は……免許の効力を停止することができる」と規定し、その趣旨は、免許を受けた者に正当な事由がある場合にまで免許の取消し等を許すものではなく、したがつて、かかる正当な事由があるにかかわらず、免許を取り消したりすれば、その処分は違法と解されるのであるが、原告が主張する右のような事由は、運転免許停止にともなう通常の不便不利益でとくに停止期間中の運転を正当ならしめるものではないというべきであるから、右に述べた正当な事由に該当しないといわねばならない。したがつて、原告の右主張は理由がない。

なお、本件における数種類の運転免許が一通の運転免許証に併記されているいわゆる併記免許(法九二条二項参照)の場合に、数種の免許を受けた者がその一の免許に係る自動車の運転に関し、法一〇三条二項二号に掲げる法令違反行為をしたときに、当該免許の取消し等ができることは当然として、そのことを理由にして、その他の免許についてもその取消し等ができるかどうかについては、各運転免許が独立の処分であり、その免許の取消し等が制裁的性質のものであることにかんがみ、疑義がないわけではないが、法が、たとえば法一〇三条の二第一項三号を設け、同条項が、法一一八条一項一号の違反行為(無免許運転)をし、よつて交通事故を起こして人を死亡させたときに、その者の免許の効力を仮停止することができると定め(仮停止も停止や取消しと同趣旨である。)、無免許運転をした者がある場合にはその者の受けている他の免許の効力を仮停止する旨を規定し、道路交通の安全を期するため危険の予防を図ることを本旨としていることが窺われるから、併記免許の場合、その一の免許について法令違反行為があり、当該免許の取消し等の事由が生じたときは、他の免許についてもその取消し等をすることができると解するを相当とする。したがつて、本件において、原告が第一種普通、軽、二輪の各運転免許を併記して受けていたところ、第一種普通、軽の各運転免許について停止期間中に法令違反を犯したことは前示のとおりであるから、かかる場合には、被告において二輪の運転免許についてもこれを取り消すことができるというべきである。

三  つぎに、原告は本件各処分に適法な聴聞手続を経ていない違法があると主張するので、この点について判断する。

成立に争いのない乙第一号証、証人長坂丑太郎、同杉山秀樹の各証言および原告本人尋問の結果(ただし後記措信しない部分を除く。)を総合すると、被告が、本件各処分をするにあたり、昭和四二年四月二〇日、被告所管の警視庁交通部交通処理課に出頭した原告に対し、本件各運転免許の停止期間中の法令違反事実を理由として、聴聞を行なう旨、その期日が昭和四二年五月一九日午後一時三〇分である旨、およびその場所が東京都千代田区霞が関一丁目二番地警視庁本部聴聞会場(屋上)である旨、ならびに聴聞に出頭しないときは書面審理で決定を行なう旨を記載した聴聞通知書を交付したこと、被告が右聴聞の期日および場所を東京都公報に掲載し、所定の公示の手続を履んだこと、被告が同日午後一時三〇分から前記聴聞会場において同日の聴聞手続を開始し、原告の出頭を待つたが、通常、当日の聴聞が終了する午後三時三〇分ごろになつても、原告が出頭せず、また、その間、被告に対し電話等による連絡をとらなかつたこと、そこで、被告が原告の不出頭には正当な理由がないものと認め、右終了時刻ごろ、聴聞を行なわないで原告に対する本件各処分をしたこと、原告が同日午後四時ごろになつて遅れて出頭したこと、そして、当日の聴聞に立ち会い、被告から本件各処分の執行を命ぜられていた係官が、原告に対し、定められた時刻に出頭しなかつた理由を尋ねたところ、原告が「仕事が忙しかつたので、定められた時刻に出頭できなかつた」旨を申し述べたので、「それでは不出頭の正当な理由にならない」旨告げ、本件各処分を執行すべく本件処分通知書を原告に交付したことがそれぞれ認められ、原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は措信せず、他に以上の認定に反する証拠はない。

ところで、法一〇四条一、二項は、運転免許の取消しあるいは九〇日以上の停止処分をするには予め被処分者に通知された期日における公開による聴聞を行なわなければならず、被処分者は右聴聞に際して意見を述べ、かつ、有利な証拠を提出することができる旨規定し、被処分者が濫りにその有する運転免許の取消しあるいは九〇日以上の停止処分を受けることがないよう手続的な保障を設けている。したがつて、被告がかかる処分をなすに際しては、できうる限り右の法の趣旨、目的に沿うようにこれを運用しなければならないことはいうまでもないが、右の手続的保障は、常に必ず被処分者が現実に右手続に関与しなければならないとするものではなく、同条四項(改正前・現五項)の規定により、被処分者が正当な理由がなく定められた聴聞の期日に出頭しない場合等にはこれを経ることなく処分しうることとされている。本件の場合、原告が遅れる事情を連絡することなく、通常、聴聞手続が終了する時刻を超え、かつ、定められた時刻より約二時間三〇分も遅れて出頭したことは前示のとおりであるから、たとえその遅刻の事由が自己の仕事の繁忙によるとしても、これをもつて右法条にいう「正当な理由」に該当するとはいえず、したがつて、原告が正当な理由がなく定められた聴聞の期日に出頭しなかつたものとして、公開による聴聞を経ることなくなされた本件各処分は適法であり、原告の前記主張も理由がないといわなければならない。

四  よつて、原告の本訴請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本良吉 渡辺昭 岩井俊)

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